小入谷林道

 

「林道小入谷線」「林道上根来線」


〜過疎集落をむすぶ、峠越えの美しき未舗装林道〜


小入谷林道(滋賀県高島市〜福井県小浜市)
撮影日:2006年5月


以前の(2003年の)小入谷林道へ

←寒風麻生林道へ 地図へ 鵜川村井林道へ→


ゴールデンウィークを利用して、久しぶりに小入谷林道を訪れた。前回の訪問が2003年の11月なので、2年半ぶりということになる。その間、何度か来てはみたものの工事中による通行止めなどでフラれている状態が続き、今回も訪れるまでは不安があった。


2006年5月撮影
旧朽木村の最奥の集落『小入谷』。そこを更に奥へ行くと林道起点だ。途中、川べりに大きな桜の木があり、今まさに満開。


春の爽やかな日差しの中、市町村合併によって今では高島市となった旧朽木村の最奥の小集落『小入谷』の奥の林道起点に向かう。周辺のどの集落もそうであるが、この小集落も過疎化の波にいつまで持ちこたえられるのかという不安が尽きない。実際ここに来るまでに飛び飛びに現れる集落を見ても、廃屋が目立つ集落がけっこう多い。地元の小学校も生徒不足による存続の危機を、山村留学で何とか乗り切っている状態だ。今年久しぶりに地元からの入学生があったという事実をみても、その深刻さがよくわかる。以前は各集落にあった分校もとうの昔に姿を消し、今建物が残っているのは「平良分校」だけとなっている。自然の厳しさはもちろんあるだろうが、これだけの恵まれた自然の中で子どもたちが育つことが難しくなっている状況、つまりこういった山村地域では就学年齢の子どもを持つ家庭が生活できなくなってきている状況というのは、やはり大きな問題なのではないだろうか・・など、いつものようにぶつぶつボヤキながら考えていると、大きな桜の木が目に飛び込んできた。
5月の今が満開のこの桜、近づくとブンブンと音がする。桜の花にやってくる蜂たちの羽音である。春が来て多くの植物が花を咲かせ、虫たちもいっせいに動き出す、そんな感じだ。こういうのを季節感というのだろうか、都会では味わえない山里の季節感に満足する。


2006年5月撮影
林道起点。林道名を標示する黄色い看板が新たに立てられていた。正式名は「林道 小入谷線」というようである。


2006年5月撮影
林道起点あたりは、横に川が流れる。車もよく通るのか道は硬くしまっている。日陰にはまだ雪が残っている。


桜を越えると林道入り口が見えてきた。お?何か前と違う。以前にはなかった黄色い林道看板が新たにできている。そこには「林道小入谷線」と書かれている。勝手に小入谷林道などと呼んでいたが、正式名称は「林道小入谷線」というらしい。この林道起点から道は未舗装になっている。以前の訪問時は、未舗装でありながらあまりに整備された林道だったので、舗装されるのも時間の問題かと感じたのだが、幸いまだ舗装されていない。ホッとする。滋賀県においてまともな未舗装林道といえば、今となっては「マキノ黒河林道」とここくらいしかないのではないだろうか。距離の短いピストン林道は数多いのだろうが・・。そういう意味で本当に貴重な存在となってしまった。


2006年5月撮影
路面はほぼこのような状態で、非常に安定した感じだ。これだと普通車も安心して走れる。今回何台かの車と出あったが、どの車もむやみにスピードを出すこともなく、マナーをわきまえた運転だったのが印象に残る。


2006年5月撮影
川と別れると上り坂となり、標高を次第に上げてゆく。


2006年5月撮影
景色がひらけ、青空が見えてくる。非常に開放的な感じですがすがしい。前回訪問時は残念ながら天候が悪かった為、このような爽やかな印象を感じることはできなかった。


さっそく林道に入り車を走らせる。私自身久しぶりの本格的なダート走行なので、妙に嬉しい気分になる。初めは川の横を走っていたが、それともすぐに別れ車は標高を上げてゆく。春らしく木々の緑はみずみずしく鮮やかだ。以前の訪問時は秋の紅葉の季節であったのだが、残念ながら天気が非常に悪く曇り空であった為、走っていても鮮やかさを感じることはなかった。しかし今回は天候に恵まれて目に入るもの全てが鮮やかで美しい。起点辺りから開放的な感じのこの林道、標高を上げてゆくと空が近づきますます開放的になる。道はフラットで走りやすい。時々、峠から下ってくる車とすれ違う。普通車でも十分に走れるフラットダートで、しかも道幅も林道としては十分なものがある。ワイルドさを求めるむきには物足りなさを感じるかもしれないが、爽やかさを求めての林道ツーリングには最適な林道だ。見晴らしもよい。滋賀県側から峠にたどり着くまでに多くあるビューポイント。遠く連なる山々、そこを縫うように走る林道、そして林道起点となった『小入谷』の集落までも一気に見渡すことができるその風景。まことに絶景である。そして山肌に点々と赤く見えるのはツツジだろうか、赤い花が彩りを添える。風も爽やかですがすがしい。仲の良いカップルであれば、これらビューポイントで彼女の手作り弁当のお昼ご飯などもいいだろう、などよけいなことも考える。しかし残念ながら私はコンビ二で買ってきた「おーいお茶」を飲む。


2006年5月撮影
このあたりになると、常に青空を味わうことができる。上を見るだけでなく横を見ると、道の脇にはこのような花も咲いている。何という花なのかはわからないが、ツツジではないことは私にもわかった。


2006年5月撮影
峠まではまだ少し距離はあるが、このような開けた視界がずっと続く。こんなに開放的な林道だとは気づかなかった。やはり林道はその日の天候によって印象が全く変わってしまうものだということを、改めて感じる。眼下を見下ろせば、非常に美しい春の山の景色が広がっている。


2006年5月撮影
ややモヤっていたにもかかわらず、この風景。もう一度必ず訪れたくなるような光景が広がっている。私の中での滋賀県ナンバー1の林道「マキノ黒河林道」も真っ青なこの美しさをいつまでも保ってほしいと願うのは私だけではあるまい。


そうこうしている間に峠に着く。滋賀県側から6kmほどだろうか。広々とした峠の風景も起点同様、前回とは少しだけ変わっていた。「おにゅう峠」の石碑の横にやはり同じように「林道小入谷線」という黄色い看板が新たに立てられている。それ以外は、なぜかカーブミラーのミラーの部分がなくなっていた。雪でやられる、という場所でもないような気がするが・・。もちろん風で飛ぶなんてことはないだろう。だが支柱だけ残っているというのもなんだかおバカな感じがする。


2006年5月撮影
なぜだかわからないがミラー部がなくなってしまったカーブミラー。これでは役に立たない。峠の石碑や祠は変わらず健在であった。ここからは福井県側の山々、滋賀県側の山々、さらには若狭湾までも見ることができる。天気が良ければ文句無く絶景である。


この広々とした峠の福井県側、滋賀県側どちらの景色も美しい。今回は残念ながらモヤでうっすらとしか見えなかったが、天候によっては福井県側には若狭の海を見ることができる。またどちらの風景も山が幾重にも連なってはいるものの、それぞれ違った感じの連なりの風景を見せてくれる。難しいことはわからないが、木々の植生の違いがあるのかもしれない。福井県側を見おろすと、手前に赤い屋根の建物が見えるが、これは林道の福井県側起点横にある牛舎らしき建物である。またその奥に見える集落が『上根来』という過疎の集落である。


2006年5月撮影
道路脇の残雪と木々の緑、削られた路面の土、そして空・・、これこそ春の林道の風景。


2006年5月撮影
未舗装と簡易舗装が繰り返される福井県側。ガードレールは雪のせいかボコボコにゆがんでしまっている。


2006年5月撮影
峠を少し下った辺りからの風景。杉林と違い、鮮やかな緑が美しい。季節それぞれに違った色を見せてくれるのも嬉しい。


2006年5月撮影
手前の谷に見える赤い屋根は、林道の起点付近にある牛舎らしき建物だ。またその奥には道が続き、『上根来』の集落へと至る。


2006年5月撮影
左写真は牛舎らしき建物。右のほうから降りてくる道が林道である。左写真は『上根来』の集落。ポツンポツンと見える家屋。その周囲には杉が植えられている。


林道を福井県側に下ってゆくと、所々に雪が残っている。雪が溶けにくい北斜面ということなのだろうか。場所によっては道全面が15m程に渡って雪で覆われている。4WD車でないとここは通れないかもしれない。道は滋賀県側より落石も多く荒れているが、注意深く走れば普通車でも十分走れそうだ。コンクリート簡易舗装が時折現れるが、基本は未舗装である。林道を走りながら目に入ってくる風景、爽やかさという点からいくと南斜面である滋賀県側のほうが勝っているように思えるが、これはやはり日差しの量によるものなのかもしれない。日差しを受けるか、空が見えるか、などで印象が大きく変わるのが林道の風景だ。


2006年5月撮影
福井県側はこういった落石箇所がけっこうあった。けっこう尖った石もあるので踏まないように注意して走らなければならない。


2006年5月撮影
谷筋から流れる水。雪解け時には多くの水が流れることだろう。


落石に注意しながらゆっくりと走る。するとやがて福井県側の林道起点が見えてくる。先程、峠下から遠景で見えていた牛舎らしき建物が目の前に現れる。起点にある林道看板ならびに道標には「林道上根来線」とある。おそらく「おにゅう峠」で滋賀県からの「林道小入谷線」と福井県からの「林道上根来線」の二つの林道が結ばれているということなのだろう。ややこしいのでここでは二つあわせて「小入谷林道」と勝手に呼ばせていただくことにした。二つ合わせて12km余りの林道となる。


2006年5月撮影
福井県側の林道起点。滋賀県側には無かった通行止めの看板がある。これはやはり落石と残雪により危険と判断されている為だろう。


2006年5月撮影
林道の道標。起点から峠までの区間が「林道上根来線」なのだろう。峠が県境となっているので、管轄がそこでそれぞれ変わるのだろう。距離は6km程だ。


なお林道起点辺りに人家らしきものは見られないが、郷土の戦没軍人さんのものと思われる慰霊碑がポツンとある。おそらくかつてはこの辺りにも人家があったと思われる。その慰霊碑は、きっとここで生まれ育った方のものなのだろう。愛する家族の眠る故郷の地であるが、徐々に姿を変える故郷をついには離れざるを得なくなり、慰霊碑だけが残ったということか・・。過疎化の波は滋賀県側、福井県側どちらにも押し寄せ、やがて飲み込んでしまおうとしている。二つの県の過疎の村を結ぶ小入谷林道、今この林道周辺で見られる風景は大変貴重なものと思われる。5年後、10年後にはこの風景がどう変わっているのだろうか心配になる。美しくもさみしい『上根来』の集落の風景を見ると更にその思いは強くなるのである。


2006年5月撮影
もう一度ゆっくりと訪れて、景色を味わったり周辺を散策したりしてみたい。また訪れたくなる、そんな気持ちにさせてくれる林道である。


←寒風麻生林道へ 地図へ 鵜川村井林道へ→
■e−konの道をゆく■



ここより下は、以前の(2003年の)小入谷林道です。




小入谷林道


〜若狭の海が見える、福井と滋賀をむすぶ林道〜


小入谷林道(滋賀県高島郡朽木村〜福井県小浜市)
撮影日:2003年11月

←寒風麻生林道へ 地図へ 鵜川村井林道へ→


滋賀の朽木村と福井の小浜市を、山越えでむすぶこの林道の県境の峠には『おにゅう峠』と記された碑と祠が設置されている。そして山の風景にアンバランスなその真新しさが、この林道がまだ開通して間もないことをあらわしている。見てみると、碑には『滋賀県朽木村、福井県小浜市、平成15年10月』と記されている。本当に開通したてのホヤホヤだったのである。


2003年11月撮影
峠にある、林道開通記念の碑。


2003年11月撮影
ここから少し福井県側に下ると日本海(若狭)が見える。眺望は文句なしだ。


2003年11月撮影
折り重なる山々の向こうに若狭の海。天候が良ければ言うことなし。この展望の良さのせいか、林道の割りにけっこう普通車が走っていたりする。


滋賀県で唯一の村である朽木村、その朽木村を福井県境に向かって奥にえぐるように走っているR783。その最奥からこの小入谷林道は始まる。小入峠に向かって未舗装路が続き、峠を越えると福井県小浜市に入るが、この風景だけを見ると、とてもじゃないが市であるようには思えない。残念ながら上根来、中ノ畑といった集落に着くまでに未舗装路は終わってしまうが、全線、いかにも山奥を走っているという感じの道で走っていて大変心地よい。特に訪れた時期が紅葉の季節ということもあり、おそろしく美しい紅葉や木々の様子があちこちで見ることができ、天気が悪いことなど忘れさせてくれるほどであった。特に廃校を利用したと思われる山の家らしき所の雨上がりの紅葉の輝きは、この先もずっと忘れることはないだろう。また峠付近からは福井側に若狭の海が見ることができ、これもまた大変美しいのである。運転しながら見とれて、谷に転落しないようにしないと・・・。


2003年11月撮影
峠を越えた福井県側の路面。走りやすい道だ。


この林道は、未舗装といっても道幅十分で、道も荒れていないので普通車でも慎重な運転であれば十分に通行可能である。この日は休日ということもあり家族連れやおばちゃん、おねえちゃん、カップルなどが来ていた。道が良いと車が多くなる、車が多くなるといろいろな人が来る、いろいろな人が来るといろいろなことをする人がいる、中には一般道よりはるかに条件の悪い林道であるのに無茶な運転をする者がいる。こういう時は急いでその場を離れることにしている。一般道でも、こういった道でもマナーは大事にしたいものである。せっかくこういった美しいところに来ているのに不快な思いだけはしたくないものだ。


2003年11月撮影
秋の林道はまことに素晴らしい。この時は少し時期が遅すぎたようで葉の色が茶色に変わりつつある。


2003年11月撮影
山から立ち上る霧。山の風景は季節、天候、時刻などの違いで、それぞれ別ものとなる。


これよりずっと以前に、この林道のすぐ南にある芦生林道(正式名かどうかは知らないが)に何度か行ったことがある。この林道は滋賀県の朽木村の生杉というところから、京都府の美山町の芦生へ伸びる林道で、県境付近でゲートがかかっている。その付近は京都大学の演習林となっており、大変貴重なブナの原生林だそうである。その頃この生杉には無人販売があり、「誰が買うのだろう」などと思いつつ、行く度に白菜の漬物を買ったものであるが、この小入谷林道を訪れた時は残念ながらもうなかった。とても美味しかったのだが、もう作られていないのだろうか。ぜひもう一度味わってみたいなぁ・・・。


2003年11月撮影
滋賀県側の林道起点。未舗装状態もいつまでなのだろう・・・。


←寒風麻生林道へ 地図へ 鵜川村井林道へ→
■e−konの道をゆく■