若狭幹線林道


〜海とともに走る爽やか林道〜


若狭幹線林道(福井県小浜市・三方上中郡若狭町)
訪問日:2006年8月


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林道や廃村、過疎の村などが好きで訪れるようになってから15年程になる。その間、様々な地を訪れ、いろいろな美しい自然の風景を見ることができたが、これら自然に近い風景というものは、その日の天候によって大きくその印象が変わるということを、いつも感じる。同じ場所であっても、訪れた日がたまたま爽やかな青空が広がっている時であれば、そこは何とも爽やかな美しい景色として残るだろうし、たまたま大雨で激しく雨の降る時であれば非常に不安で不気味な怖ろしい印象となって残るだろう。
特に山奥深い林道は、激しい雨の時や雨が続いた時などは路面がゆるくなって走行が不安定となるばかりではなく、水を含んだ法面は落石や山崩れなどの危険度も増し、より強い不安感を残すことになる。加えて、雨水の水幕で覆われたタイヤと尖った落石との接触は、通常よりタイヤを切れやすい状態を招きパンクなどの危険度も増す。もちろん雨やガスなどで運転中の視界も極端に悪くなる。
悪天候時に林道を走った経験をお持ちの方であれば理解していただけると思うが、通常でも危険の伴う林道走行が悪天候によって更に危険となるのである。その中で見る景色は、光量不足のため彩度が低くなり、薄暗い雰囲気で何ともいえぬ不安感を醸し出す。その危険に対する不安感と、実際に目に映る風景の不安感とが合わさることで、その風景は怖ろしいものとして印象付けられるのである。 


林道の全体マップ。三方五湖の西側、ご覧のように海の近くを走っているということがよくわかる。


で、この若狭幹線林道の場合どうだったかと言うと、それはもうトップの写真をご覧いただくだけでもおわかりだと思う。これ以上無い程の快晴で、さらに空気も非常に澄んでいて8月とは思えないほどであったのである。訪れたのが午前中の早い時間ということもあったのか、本当に爽やかな天候だった。
さらにこの林道、杉林などの背の高い木の植林がほとんど無いため、空をさえぎるものが無く、視界が常に広々としている。青々とした空の広がり、遠くまで見える若狭の海と水平線、そして下界の集落・・などなど美しい風景が次から次に視界に飛び込んでくる。特にこの日の若狭の海はマリンブルーに輝き、空のスカイブルーとの調和が実に見事で、文句のつけようの無い美しさだった。加えて、白い雲がそれにアクセントを加えて景色の広がりを強調させていたのが印象的であった。


もう、これに尽きる。これ以上言うことはない、というこの日の若狭幹線林道だったのである。


2006年8月撮影
これはどうやら三方五湖のうちの一つ、おそらく三方湖と思われる。

2006年8月撮影
眼下に見える漁村。林道からは支線が延び、それぞれの集落とを結んでいる。


この若狭幹線林道は、関西の林道ファンで知らない者はいないというくらい有名な林道である。本格的なオフローダーが走るには何とも物足りないだろうが、気軽に走れる上に開放的、20kmという適度な距離、極上の爽やかな海の風景を満喫できるという点ではピカ一で、関西周辺にはこれ以上のものはなかなか見当たらないのではないだろうか。ちょっとしたツーリングにはもってこいのコースだ。人気があるのもうなづける。実際この日も平日でありながら、何台かのバイクや4駆車とすれちがった。
しかし私はけっこう身近な所に住んでいながら、これまでこの林道を訪れたことはなく、今回が初めての訪問であった。もちろん以前からその存在は知っていたのだが、なぜかその評判があまりにも爽やか過ぎて近づけないでいた。それとポピュラーなあまり、未舗装林道でありながらも通行量が多いのではないか?という不安もあったのである。林道ではできるだけ静かにのんびりと風景を味わいながら走りたい、という気持ちを日頃から持っている私は、交通量の多い林道はできるだけ避ける傾向にあった。だが、やはり関西の人間であるなら訪れないわけにはいけない、ということで今回の訪問となった。


2006年8月撮影
『阿納尻』の林道起点。非常に広々としてわかりやすい。


2006年8月撮影
「広域基幹林道/若狭幹線/小浜市」の表示の大きな林道入り口の碑。

2006年8月撮影
入り口辺りは舗装路だが、すぐに未舗装路へと変わる。


2006年8月撮影
程なくして現れた未舗装路。非常に幅広く、フラットな路面で走りよい。浮き砂利に注意するくらいのものだ。

2006年8月撮影
いよいよ海が見える、という時に現れた看板。ここらの標高は200mくらいである。


2006年8月撮影
看板の地図をアップしてみた。なぜか林道のルートが全くかかれていない・・。


この日は、小浜湾の東にある集落『阿納尻』(福井県小浜市)付近の起点から入り、東の起点となる『世久見』(福井県三方上中郡若狭町)を目指すことにした。地図で言うと左(西)から右上(北東)へ向かったのである。だから常に左手に若狭湾を臨みながら走ったことになる。『阿納尻』にある起点は広々としていて非常にわかりやすく、おまけに立派な林道の碑まで建てられている。この舗装路もすぐに未舗装路となるが、道幅は十分で路面もフラットで走りやすい。注意するとしたら浮き砂利によるスリップくらいのものだが、スピードさえ無理しなければ問題ない。
すぐに道は標高を上げ始める。上り坂の途中に看板が見えるので早速降りて見てみる。林道の詳細な地図がかいてあると思いきや、なぜか林道については一切かかれておらず、ハイキングコースのようなものの説明と現在地がかかれているだけだった。一応写真におさめすぐに出発する。5分程車で走ると左手眼下に海岸沿いの集落が見えてくる。海岸沿いの集落『犬熊』だ。この辺りから、青い空に青い海、そして眼下に見える集落、という『若狭幹線林道』のメイン風景がしばらく続く。ちょうど山の稜線近くを走ってることになるのだろうか、林道のどちら側も風景が開けている。視界をさえぎるものがほとんどなく、本当に開放的で明るい雰囲気だ。 


2006年8月撮影
『阿納尻』から入ると道はすぐに未舗装路に変わり、標高をあげてゆく。

2006年8月撮影
すると間もなくして左手に海沿いの集落が見えてくる。通常の林道ではなかなか見れない風景だ。


2006年8月撮影
海にはたくさんのイカダが浮かんでいる。釣り客用のものなのだろうか・・。

2006年8月撮影
観光林道??らしく、所々にこのような休憩所のような展望ポイントがある。


このあたりの地形は、海岸からすぐに山となっている所が多い。その海岸と山との間にあるわずかな平地のスペースに集落が作られ、集落それぞれは海岸線に沿って走る道で結ばれている。
山向こうの集落とはどうかというと、その山の稜線を走る林道が仲介となって山を隔てた集落同士が支線と支線で結ばれている。林道ができるまでは、山向こうの集落へ行くには山を大きく迂回して行かなければならなかったのだろうが、今では支線で林道へ出て山越えで向こうの集落へ行けるようになった。おそらくこの林道は、地元の方の生活道としても使われているのだろう、本線から集落に延びる何本かの道のどれもがしっかりと踏まれていた。合流点がちょうど峠部となって村と村を結んでいるこの感じ、同じ福井県の越前西部林道も同じような感じだった。
海沿いの集落を見ると、それぞれの近くに海水浴場のようなものがある。規模は小さいのだが、きっとシーズンには集落内の民宿に泊まる海水浴客でにぎわうのだろう。私が訪れた時は、夏とはいえ既に8月の終盤ということで残念ながらシーズンオフとなっており、海水浴客の姿は見えなかった。また海を見ると、多数の筏のようなものが浮かんでいる。何かを養殖しているのか、それとも釣り客用のものなのかはわからないが、魚の豊富なこの地域、釣り客でも大いにぎわうことだろう。


2006年8月撮影
いくつかある分岐点にはこのような道標がある。これは『阿納』の隣の集落『犬熊』へ下りる分岐のもの。


2006年8月撮影
林道の両側とも風景は非常にひらけている。これは海と逆側の風景。

2006年8月撮影
で、海側を見るとこのように美しい若狭の海がひらけている。白い砂浜は海水浴場だ。


2006年8月撮影
まっすぐに行くと林道本線。右に下ると集落へと下ってゆく。

2006年8月撮影
分岐点付近の展望台へのぼってみた。道はどこもこのように広く、すべてが広々している。


起点辺りであげた標高(200m程)は、稜線に沿って走りながらもさらに少しずつ上げてゆき、最終的には450m程まで標高を上げる。そしてそれとともに見える風景も遠くまで広がりを見せてくる。本当に爽やかだ。途中、何箇所か展望台のようなものがあったりする。ある展望台では何台かのバイクが停まって、海を見ながらライダーたちが食事をとっていた。オジサンたちの集団のようだったが、爽やかな海を眼下に見下ろしながらの食事は、さぞかし美味しかったに違いない。バイクのどれもがオンロードバイクだったというのが、この林道の特徴を語っている。一部雨で少しえぐれたような所があったが、未舗装部の大部分がフラットで道幅十分という状況であるので、普通車でも十分走れてしまうのである。
走りやすさ、爽やかさ、美しい風景、20km強という適度な距離など美味しさてんこ盛り状態のこの林道、デートや仲間同士のツーリング、そして家族連れ旅行などにもピッタリ。オフロード初心者の方には特におすすめである。


2006年8月撮影
このあたりからは、これこそ若狭幹線林道という風景がしばらく続く。

2006年8月撮影
海に見とれて真っ直ぐに突っ込みそうになる。そのためのガードレールなのだろう。


2006年8月撮影
どこもかしこもビューポイントという感じがする。本当に爽やかだ。思わず車を停めてしまう。

2006年8月撮影
思わずスピードを出してしまいそうになりそうな、走りやすい快適路。


2006年8月撮影
どこを見ても青空が見える林道。ジメジメ感はまるでない。

2006年8月撮影
この平らに整備されているのは、もしかして舗装されるため?などの不安感がよぎる。


2006年8月撮影
左側がえぐれているのは、雨水の通り道。

2006年8月撮影
東の起点の世久見に近づくと、見晴らしのいい海の風景が見えなくなってくる。


林道はほぼこのような状態が続き、東側の起点の『世久見』に近づくと、今までの雰囲気とは違い、通常の林道らしい木々に覆われる薄暗い箇所も少し現れる。道が舗装路に変わると間もなく東側の出口。ちょうど世久見トンネル出口付近に道は出る。この東側起点の『世久見』の集落にも民宿の看板が多く見られる。普段は静かなこの集落も、海水浴シーズンには若狭の美しい海を求めて、都会から沢山の若者や家族連れが訪れにぎわうのだろう。
東側の起点というか出口はこの『世久見』だけではなく、もう少し手前の『海士坂』という集落へと出る道もある。しかし今回そこへの支線が通行止めとなっており、行くことはできなかった。また訪れる機会があったら、そちら側の道も走ってみたいと思う。先にも述べたが、この林道は集落へと延びる支線が何本かある。今回は時間の関係上、どの支線も走っていない。また訪問することがあるなら、今度は十分に時間をとり、漁村へと続く支線などにも訪れ、もっと間近に若狭の海の香りを感じてみたいものだ。海の香りを味わいながらの林道走行なんて、そうそうできるものではないのだから・・。


2006年8月撮影
林道竣工の記念の碑。1964年と記されている。案外古い。完成はいつだったのだろう・・。


2006年8月撮影
見えるのは三方五湖のうちの一つ三方湖だ。

2006年8月撮影
道が舗装路に変わると起点はもうすぐ。全線がこのようになってしまったらもう走りに行くことはないだろう。


2006年8月撮影
「海・湖・見・味・遊 世久見」と書かれた、世久見の起点にある看板。見ると民宿の数が非常に多い。

2006年8月撮影
林道起点を集落『世久見』側から見たところ。右が本線で、真っ直ぐ行くと世久見トンネルである。


何かいいこと尽くめのことばかり書いてしまったので一言つけ加えておこうと思う。冒頭の部分にもつながっていくのだが、今回の走行は幸運にも全ての条件に満たされた中の走行、いわば恵まれすぎた中での走行である。あくまでも一つの条件の中で見せた一表情に過ぎないのである。もしこのレポートをご覧になって若狭幹線林道に訪れてみようと思った方がおられたら、ある条件では爽やかな林道も、条件が変わると全く違った危険なものに変わる、ということを十分に認識した上でご走行いただいた方がよいと思う。穏やかな林道も天候の悪い時には、一変して怖ろしい林道となる。さえぎるものが無い見晴らしのよい地形は、風雨がゆるむことなく激しく車を、そして林道をたたくことになるだろうし、海から直接来る吹き上げの風もすさまじいものとなって車をあおり続けるだろう。さらにウィンドウに叩きつけられる雨で視界ははなはだ悪くなり、悪天候時に発生する白いガスがそれに追い討ちをかける。ゆるい路面には雨水が流れる溝ができ、より足元を不安定なものにする。もちろん崖崩れや落石などの危険も高くなるだろう。走りやすい林道だからといって、走行にはくれぐれも無理の無いようにしたいものだ。特に私のように単独走行しかしない者は、より慎重に運転そして状況判断をする必要があるのである。


不法投棄、自然破壊、盗伐、無謀走行、事故・・などなど林道が閉鎖される理由は様々あるが、訪問者である我々は細心の注意を払い、いつまでも林道走行ができる環境を保つよう努めていきたいと最近特に感じるのである。


2006年8月撮影
空が青いと海も青くなる。荒れた天候の時は海もグレーの海となる。どちらの海も若狭の海だが、その表情は正反対である。


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