さてこのご主人は、その後ご子息から、この戦争の頃の体験を形にして残してゆくことをすすめられ、大変なご苦労の末に自費出版で一冊の本にまとめられていた。わが国、それも身近なところに戦争があったにもかかわらず、それが時の流れとともに消え去り、忘れられようとしている今の時代、こういう時にこそ戦争の現実を、戦争を知らない世代に伝え残してゆくことの重要さを感じられてのことである。私は、戦争体験だけではなく、高齢者が経験されてきたことや作り出してきたことなど、様々なことは後世に残しておくべき大事なことが多いと常日頃感じている。しかしそれがいとも簡単に壊され、そして消えてゆく場面が多く見られるような気がしてならない・・。もっともっと積極的に残そうとする必要はないのだろうか・・。
この戦争時の体験を一冊の本にまとめられた、というお話をうかがった時、たぶん私は
「う!読みたい!」
という表情をしていたのだろうと思う。それを察してなのか
「ここにも残ってるかもしれんなぁ。」
とご主人が奥に見に行ってくださった。間もなく
「一冊残ってた。ちょうど一冊残ってた。」
とご主人の大きな声。ぜひとも購入したい旨を伝えたのであるが
「お金?そんなんいらん、いらん。」
と、結局お金も払わずいただいてしまった。自費出版は思いのほか料金のかかるものであるのに、本当に申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちで・・とにかく丁寧にお礼を言うしかなかった。帰宅後、早速これを読ませていただいた。決してぶ厚くない冊子であるが、その中には体験された者にしか表せないような貴重なお話がいっぱいで、大変わかりやすい表現で書かれていた。そのため実際に経験していない自分であるのに、情景をそれなりに思い浮かべながら読むことができた。いただいて感謝、読み終えた後でも改めて感謝・・であった。
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